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「ハンニバル」どこまでも優雅で残酷な悪夢

高名な精神科医にして猟奇連続殺人鬼であるハンニバル・レクター博士を主人公とする、「レクター三部作」

非常に好きな作品で、どれも最低5回ずつは観たが、一番好きな作品はと言われたら第2作「ハンニバル」を推したい。

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前作「羊たちの沈黙」から数年後のイタリアが主な舞台。脱獄に成功し、フィレンツェのとある図書館で司書の職についていたレクター博士を、かつての復讐を狙う富豪・メイスン、懸賞金目当ての刑事・パッツィ、そして前作のヒロイン、クラリスが追いかける。

「羊たちの沈黙」がレクター博士の猟奇性にスポットを当てた作品であった一方、「ハンニバル」では彼の超然とした優雅さに主眼が置かれている。全編を通して流れるオペラと、フィレンツェの荘厳な建築を背景に、レクター博士がどこまでも優雅に人を殺しまくるわけです。

手始めに、パッツィの差し金で指紋を取りに近づいてきたスリの男を、華麗な身のこなしで文字通り"ひとひねり"してあの世送り。こんな死に方絶対イヤだ。手にかける瞬間に目と口をカッと開くレクター博士の表情は悪魔そのものに見える。

次は、パッツィ刑事を夜の図書館に監禁し、彼の先祖の故事になぞらえて、腹をかっさばいて宙吊りにし惨殺。

さらに、パッツィ刑事の追手に対しても、相手の目の前にすっと立ちはだかり、「こんばんわ」と声をかけた次の瞬間には喉笛を一文字に掻き切って、さっそうと去っていく……。

もう最高にカッチョええええなのですよ。このシークエンスは時代劇の居合抜き、「座頭市」などにも似たスピード感で、何度観てもシビレます。一部には「あの原作をただのスプラッター映画にしやがって」という批判もあるようですが、それがどうした。レクター博士がかっこよければこちとら満足なんじゃい!

レクター博士の語り口が終始穏やかで優しいのもたまらない。「羊たちの沈黙」では高圧的に振る舞うことが多かった博士が、今作ではとっても人の良いおじさまになってる。「Ta-ta」(バイバイ)っていう赤ちゃん言葉を茶目っけたっぷりに使ってくるところもカワイイ! でも殺人鬼なんですけど。

「ハンニバル」は、映画全体が実に悪夢的な作りになってるんですよ。直視するのも恐ろしいメイスンの顔、人間を襲うように品種改良された豚、生きたまま自分の脳みそを食わせられる拷問といった、おどろおどろしいモチーフが数多くありつつも、舞台装置やBGM、登場人物の身のこなしはあくまで優雅。この変態な対比が、おぞましいのに何度でも観たいという中毒性を生むのです。

皆さんもこの映画で良い夢を。Ta-ta!!

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