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「ベイビー・ドライバー」の感想。音楽×クライムアクションの新感覚ムービー(※ただし前半だけ)!

エドガー・ライト監督の映画「ベイビー・ドライバー」を、一足先にニュージーランドで観てきました!

7月28日現在、映画批評サイト・Rotten Tomatoes満足度94%という驚異的な数字を叩き出しています。

えーっと、ですが、先に謝っておきます。僕はあんまりこの世界観に没入しきれませんでした。映画に期待していたものが間違っていたのか、僕の英語聞き取りスキルが不足していて内容を理解できていないのか、原因を特定するのは難しいですが、前半はかなり没入できたのに後半思いっきり距離を置いて観てしまったってのが正直なところです。やや批判的な感想になっちゃいますが、ご了承くださいませ。

10点満点中5点

あらすじ

主人公のベイビー(アンセル・エルゴート)は子供の頃の交通事故が原因で耳鳴りに悩まされており、それをかき消すためにいつも音楽を聞いている青年。彼は音楽によって天才的なドライビングテクニックを発揮するという特殊能力があり、その腕を買われてドク(ケビン・スペイシー)の犯罪組織の運転手として雇われていた。


血の気の多いバッツ(ジェイミー・フォックス)、色男のバディ(ジョン・ハム)とそのセクシーな妻・ダーリン(エイザ・ゴンザレス)などの仲間たちと危険な仕事に手を染める日々だったが、ある日ふとしたことからダイナーで働く恋人・デボラ(リリー・ジェームズ)の存在を嗅ぎつけられ、ベイビーは組織を抜ける決心をする……。

音楽とのシンクロを極端なまでに狙った映像が新鮮!!

この映画のウリは何といっても全編通して流れ続ける音楽。クライムムービーに音楽という組み合わせがなかなか異色ですが、この映画では、登場人物(特にベイビー)の行動と音楽を積極的にシンクロさせる趣向が取られています。

まず冒頭の銀行強盗のシーンですよ。仲間たちが強盗を行っている間、ベイビーは外に停めた車の中で音楽をかけながら待機しています。ここでのベイビーが異常なまでにノリノリ。音楽に合わせてハンドル叩くわドアを叩くわ、これくらいはみんな普通に運転中にやるレベルかと思いますけど、さらにワイパーとウィンカーでビートを刻んだり、しまいにはエアギターを始めちゃったり、はっきり言ってヤベー奴にしか見えません。

「あっこういう映画なのね」と割り切れるか、「なんだこいつヤベーぞ」と引いてしまうかでこの映画を楽しめるかどうかがはっきりわかれると思いますが……。

とはいえ、ここから先のカーチェイスシーンが圧巻なのです。そもそもカーチェイス自体の完成度が素晴らしいんですよ。狭い路地を猛スピードで駆け抜けてハイウェイを逆走して、警察の追跡を見事なアイディアで煙に巻いてと、ベイビーの運転テクニックがどれだけ天才的かがズガーンと伝わってきます。

そこに音楽とのシンクロという要素がからんでくる。エンジン音、タイヤの摩擦音、ギアチェンジの音、あらゆる"音"がやりすぎじゃないのと思えるほど、音楽のビートと同調して聞こえてくるんです。さっきも書きましたけど、みなさん車を運転して音楽聴きながら、鼻歌歌ったりハンドル叩いたり、音楽の盛り上がりに合わせてアクセル踏み込んだりしたことありますよね(危ないけど)? それの究極形態だと思っていただければ間違いございません。

続いて、映画のタイトルとキャスト紹介をバックに、ベイビーが街を歩いてコーヒーを買いに行くシーンがあります。これがまたカッコイイんだ! ベイビーだけじゃなくて、町を歩く人や道端のストリートミュージシャンが発する音、また店頭のディスプレイや看板までが音楽とシンクロして、洒落の利いたMVを観てるかのよう。しかも音楽のワンコーラスをワンカットで撮ってるってのも手が込んでます。このシーンは何回でも繰り返して観て、しかけを全部確認したくなるほどです。必見。

前半は、このほかにも音楽と映像の同調を狙ったシーンが満載で、しかもそれらがちゃんとスタイリッシュにまとまっていて、観ててスッゴク気持ちがいいです。カーチェイス版「ラ・ラ・ランド」という宣伝文句も間違ってないなぁと思わせてくれます。

後半は失速? ただのクライムムービーという印象

ですが、ミュージカル的な楽しみ方ができるのも前半まで。後半はなぜか映像における音楽の役割がどんどん小さくなっていきます。

中盤、ベイビーにとって、大変ショッキングなあるできごとがおきます。「犯罪組織の一員になるってのはこういうことだぞ」と思い知らされる場面です。どうもこの辺りから、映像と音楽のシンクロ率が落ちていって、ただのクライムムービーって感じになっちゃいます。

しかも、まったくシンクロしなくなるわけではなく、ほんのちょっと音楽と同調させてる部分もあるので、なんだか狙いがぼんやりしちゃってると思うのです。たとえば、ドラムの音と銃撃戦の音が合ってる、なんて場面が結構あるんですけど、これ、よーく聞かないとわかんないんですよ。銃撃戦に釘付けになってると音楽聞こえないし、逆に音楽に耳を傾けてると映像世界と距離ができちゃう。

この映画のアイディアを根本から否定する結論になっちゃうんですが、銃声と音楽の相性が悪いんですよ。たとえば、ドアをノックする音を3回「コッコッコッ」と重ねても、演出次第では打楽器っぽく聞こえるでしょう。でも、銃声を「バーン!バーン!バーン!」と続けたところで、それは3回の銃声にしか聞こえないんですよね。まったく音楽的じゃないんです。後半はかなり銃撃戦の場面が多いので、音楽的要素が薄れてしまうのは避けられなかったんじゃないかと。

というわけでして、映画の導入部分から「おおー、これはきっと全編通して音楽とシンクロした映像が続くに違いない! ミュージカルとも一味違う、新感覚の犯罪映画だー!!」とかなり期待してしまった僕は、後半になればなるほど「あれ……つまんないわけじゃないけど音楽どこいった……?」と首をひねる展開になってしまったのです。

映画の非現実性に説得力を与えていたのが音楽。それがただのBGMになってはダメだったのでは?

「ベイビー・ドライバー」は、普通のクライムムービーと比べてもかなり非現実的な作りになっています。それは、主人公のベイビーが、イヤホンで音楽聴きながら圧倒的なドライブテクニックを見せるという設定からして明らかです。そんなのどう考えても現実には無理でしょ、笑 まともに運転できるわけないじゃないですか。

じゃあベイビーは人並み外れた聴覚とか集中力があるのかといえば、冒頭、コーヒーを買いに街を歩くシーンでは、やっぱりイヤホンしながら歩いててしょっちゅう人や車にぶつかりそうになってるんです。だめじゃん……。

でも! この映画ではベイビーは音楽を聴けば驚異的なドライブテクニックが発揮できるという設定なんです!

そこはそういうもの、と受け入れるしかない。ミュージカル映画で登場人物が突然歌ったり踊ったりし始めても「ねーよ」と突っ込んじゃいけないのと同じですよ。この映画の中では、映像中のできごとすべてが音楽と同調するように起きる。少なくとも前半はそういうルールで世界が動いてるんです。コインランドリーのシーンで、これみよがしに赤青黄色の布が洗濯機の中をくるくる回ってるのも、非現実性を強調してます。

だからこそ、後半、映像と音楽のシンクロ率が突然落ちた瞬間、「ベイビードライバー」の世界の非現実性だけが、屋台骨を失って宙ぶらりんになってしまうんじゃないかと思います。音楽はずーっとかかり続けてるんですが、それが映像と同調しなかったらただのBGMなわけで、やたら音楽がノリノリのカーチェイス映画でしかなくなってしまう。ここを徹底しなかったのが、前半と後半で大きく印象を変えることになってしまった理由じゃないでしょうかね。どうせなら全編ぶっ続けで、ひたすら音楽と同調した映像が観たかったな〜と感じました。

しかし、前半のミュージカル的な部分だけでも見る価値は大いにあると思います。後半部分は僕はついていけませんでしたけど、レビューサイトでは概ね高評価ですし。個人的にはバディー&ダーリンのセクシー夫妻がかっちょよくてお気に入り。彼らが主役のスピンオフ作品があればぜひ観たい!

日本での公開は2017年8月19日です!
http://www.babydriver.jp/www.babydriver.jp

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