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「ダンケルク」の感想。こだわりぬかれた"音"で戦場の恐怖を体感すべし!

クリストファー・ノーラン監督の最新作「ダンケルク」を日本での公開にさきがけてニュージーランドで観てきました!

「インセプション」では、都市の景観そのものをぐにゃりと曲げてみせ、「インターステラー」では次元と次元の狭間を描くなど、こちらの想像力を超える映像で観客を楽しませてくれた監督にとって初となる、史実に基づいた作品。

今回は当然あんな超現実的な画は使えないわけで、いったいどんなアプローチを見せてくれるのかと思ったら、その答えは「音」でした。


10点満点中9点

血しぶきの飛ばない戦争映画!? そのかわり音がめちゃめちゃ怖い

今作の題材となっている「ダンケルクの戦い」とは、第二次世界大戦の初期、フランス北部のダンケルクに取り残されたイギリス兵35万人を救出するために行われた、大規模な撤退作戦です。

周囲をドイツ兵に包囲されてしまったイギリス・フランスの連合軍は、もはや袋のネズミ。空からは機銃掃射や爆撃、海の中からはUボートの魚雷が飛んできて、もういいように攻撃されまくり。もちろん相当な数の犠牲者が出るわけですが、斬新なのは、「ダンケルク」の劇中で血しぶきが飛ぶ描写がまったく出てこないのです。

負傷した兵士の包帯に血が滲んでいるくらいのもので、そういう意味では、映像は非常にマイルド。「プライベート・ライアン」の上陸シーンが残酷すぎて貧血起こしたという人でも問題なく鑑賞できるでしょう。

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で す が。

映像がマイルドなかわりに、音がめちゃめちゃ怖いのです。

冒頭、ダンケルクの市街地に追い詰められたイギリス軍の小隊に、ドイツ軍の機銃掃射が襲ってくるシーンからこの作品は始まります。この機銃掃射の音がものすごい圧力なんです。いやいや戦争映画の音ってこんなに怖かった!? と驚きました。観客はここから一気に戦場の真っ只中に連れて行かれてしまいます。

また映画の後半、ふとしたきっかけで密室に閉じ込められた主人公たちに銃弾が飛んでくるシーンでは、「カンッ」と、異様にあっけない音とともに死が襲ってくる。どういうわけか、このあっけなさが途轍もなく恐ろしいのです。どれだけ元気にしていても、体に一箇所穴が開いただけで人が死んでしまう。あまりに死が身近にある、一種のシュールさをよく演出できていた場面だと思います。ダンケルクの砂浜に死体がごろごろ転がってるのに誰も反応しないなんてシーンにもそれが表れてますね。

そして、銃撃だけではなくじわじわ迫ってくる死。これも怖い。例を挙げると、まず近づいてくる爆撃機のエンジン音。そして、登場人物が水の中に閉じ込められたときに流れる音楽。これが緊迫感ハンパないんですよ。人間、いざ生命の危機に瀕すると心臓バクバクになって血圧急上昇になりますが(なるよね?)、それを音で見事に表現していて、観てるだけでも息が止まりそうになります。

皆さん、これ絶対IMAXで観てくださいよ。IMAXが近くにない人は、せめて音響で座席が揺れるレベルのところを選んでください。劇場公開後にDVDで観ても、「ダンケルク」をほんとに楽しんだことにはなりません!

スピットファイア vs メッサーシュミット、圧倒的迫力の空中戦!

「ダンケルク」の大きな見せ場が、イギリス軍とドイツ軍の空中戦です。ここのカメラワークがすんごいんですよ。

なにしろ、機体の横に直接カメラを取り付けて撮影したなんて無茶なことをやったそうで、スクリーン上を水平線が縦になったり横になったり、ダイナミックに動き回るんです。観客の視点がパイロットの視点と同化して、自分がドッグファイトの現場にいるような気分にさせてくれます。あ、決して画面酔いしちゃうようなものではないので安心してくださいね。

空中戦関連でまたすごいのは不時着シーンです。どんな凄腕のパイロットを雇えばこんなシーンが撮れるのかさっぱりわからない、笑 とにかくリアリティがあるし、これパイロットは無事に生還できるのか? と観客の興味を最後まで引きつける映像と音楽の力ですよ。言ってみれば単なる着陸シーンなんですが、ここまで力を持った映像に仕上げられるってのはさすがノーラン監督です。

時間軸をずらしたストーリーテリング

「ダンケルク」では、陸・海・空とそれぞれ時間軸をずらした物語構成になっているのも大きな特徴です。ダンケルクで救助を待つ兵隊たちの1週間、作戦に参加する民間徴用船がダンケルクに到着し帰還するまでの1日、そして、船を狙うドイツ空軍を迎撃するために向かうイギリス空軍パイロットたちの1時間が並行して描かれます。

一見するとトリッキーな語り口ですが、ダンケルクの戦いって撤退作戦なので、時間軸通りに描くと、砂浜では待ってるだけ、海ではひたすら前進するだけっていう話になっちゃうんですよね。それが退屈にならないように、あえて異なる時間軸を同時に進行させ、終盤になるにつれ、それぞれが加速度的に収斂していく作りにしたのは大成功だったと思います。

テーマは「団結」? 現在のイギリス情勢とも無関係ではなさそう

また、敵であるドイツ兵をまったくと言っていいほど画面に登場させてないのも注目すべきところでしょう。メッサーシュミットを撃墜する場面でも、パイロットの生死はうやむやにされています。イギリス軍が立ち向かっているのは敵意を持った人間ではなく、不条理な運命そのもののようにも見えます。何かに立ち向かうというより、団結しよう! 助け合おう! というメッセージが主眼に置かれていると解釈できそうです。

EU離脱やら頻発するテロやら、イギリス情勢が不安定な中、「ダンケルク」のような作品が公開されるのに政治的な意図を深読みしてしまうのは自分だけではないんじゃないかなー。11月には、同じ第二次世界大戦に関する映画でゲイリー・オールドマンがチャーチルを演じる「Darkest Hour(原題)」も公開されるわけで、合わせて鑑賞するとまた発見があるかもしれませんね。


「ダンケルク」は音が命、さらに IMAX 撮影ということで、お近くの IMAX 劇場で観るのが一番です。日本での公開は9月9日。新時代の戦争映画、要チェックですよー!

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