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映画「私が殺したリー・モーガン」の感想。人間の悲しさが詰まった良質のドキュメンタリーだった!

1972年2月、大雪の降るニューヨークのジャズクラブで、ひとりのミュージシャンが射殺されました。

彼の名は、リー・モーガン。10代の頃からジャズシーンの最先端で活躍する、超一流のトランペッターでした。享年33歳。将来を嘱望されていた天才の、あまりに突然の死。

「ジャズ史上最大の悲劇」とも言われるこの事件の真相に迫ったドキュメンタリー映画、「私が殺したリー・モーガン~ジャズ史に刻まれた一夜の悲劇の真実」が、12月16日から日本で公開されます。

ニュージーランドのNetflixではすでに配信されていたので、一足先に鑑賞することができました。

ジャズファンはもちろんのこと、ジャズにあまり詳しくない人でも観て損のない、良質のドキュメンタリーでした!

10点満点中8点

リー・モーガンってどんな人?

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リー・モーガンは、1938年、フィラデルフィア生まれのトランペッター。

わずか16歳でディジー・ガレスピー楽団に加入し、ディジーと並び立つスターとして名を馳せます。当時のディジーはすでに40代後半ですから、いかに大抜擢だったかがよくわかりますね!

1960年台にはアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの一員として、世界的な人気を集めました。下の動画で、トランペットを演奏するリーの姿を観ることができます。

当時も、また今でも、ジャズファンなら名前を知らない人はいないトランペットプレイヤーなのです。

そんな彼は、1972年2月19日、ライブを行っていたジャズクラブ「スラッグス」で、内縁の妻であったヘレンによって射殺されてしまいました。

「私が殺したリー・モーガン」は、サックス奏者のウェイン・ショーターをはじめとするミュージシャンやその友人たち、ヘレンが晩年に通っていたカレッジの講師などの証言から、あの夜いったい何が起きたのかを探っていく内容となっています。

殺したいなんて思っていなかったのに、殺してしまったという悲劇

「リー・モーガン殺害事件」のことは、まぁ浮気性の旦那が奥さんの恨みを買って殺されちゃったんでしょ、くらいにしか想像してませんでした。

でも映画を観てみると、そんな単純な話じゃなかったわけですよ。

一言で表すと、「どうしてこうなっちゃったんだよ……」という感想。

殺されてしまったリーも、殺してしまったヘレンも、みんなから愛される人物で、被害者になる理由も加害者になる理由もなかった。

歪んだ人間関係であったとはいえ、リーとヘレンの2人は確かに愛し合っていたんです。

ミュージシャンとして成功しながらもドラッグに溺れ、極貧の生活を送っていたリーと、田舎に居場所を無くしてニューヨークに流れ着いたヘレン。2人は恋人であり、パフォーマーとマネージャーであり、あるいは母親と息子でもあるような、奇妙なパートナーシップで結ばれていたのです。

正確に言えば、そりゃ恨みを買う要素がなかったわけじゃない。ドラッグから立ち直るにつれ、リーはヘレン以外の女性とつるんで遊ぶようにもなります。そりゃ明らかにリーが悪い。でも、ヘレンだって彼のことを殺したいほど憎んでいたわけじゃなかったはず。

あの日、リーが別の女とクラブにいなければ。

あの日、リーがヘレンにもう少しだけ優しく接していれば。

あの日、ヘレンのバッグの中に銃が入っていなければ。

そもそもあの日、ニューヨークに大雪が降っていなければ。

運命ってのは、日頃のちょっとした行動と、実に些細な偶然で、積み木を崩すように変わってしまうのかと思い知らされる。誰も殺したいなんて思っていなかったのに、殺人犯と被害者の関係になってしまった。それが「ジャズ史上最大の悲劇」と称される所以なのでしょう。

普遍的な人間の悲しさが描かれているからこそ、ジャズファンならずとも鑑賞に値する映画になっていると思うのです。

日本では、アップリンク渋谷にて12月16日より公開です。お近くの方はぜひ劇場へ!
natalie.mu

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