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【無料あり】「アス」あらすじ・感想・考察。実はホラー映画じゃない!? 現代アメリカ社会を風刺した硬派なエンタメ!【後半ネタバレ】

傑作サスペンス映画「ゲット・アウト」を生み出した監督、
ジョーダン・ピール

彼がメガホンを取った最新作
「アス」を観ました!

いや〜 驚きましたよ。

てっきり予告編の印象からホラー映画だと思っていたら、
実は硬派なメッセージを含む社会派エンタメで、
しかも爆笑できるコメディ映画でもあったんです。

前半はネタバレなし、
後半はがっつりネタバレありで感想を書いていきます!

10点満点中8点

「アス」の予告編・あらすじ

www.youtube.com


1986年。
少女のアデレードは、
両親とともに訪れたサンタクルーズで
不思議なミラーハウスに迷いこむ。

そこで自分にそっくりな少女を目撃したアデレードは、
恐怖によるトラウマで失語症を患ってしまう。

時は流れ……
おとなになったアデレードは失語症を克服し、
夫と2人の子供とともにふたたびサンタクルーズを訪れた。

しかしかつての恐怖が蘇り、
いまひとつ休暇を楽しむことができない。

その日の夜、アデレードたちが滞在するホリデーハウスに
4人の不審者たちが侵入してくる。

彼らは一様にオレンジ色のジャンプスーツを着ており、
しかも、顔姿がアデレードたち一家にそっくりだった。

いったい彼らは何者なのか?
その目的とは……!?

「アス」のキャスト

・アデレード: ルピタ・ニョンゴ
本作の主人公。
かつてサンタクルーズで恐ろしい体験をした過去がある。

・ゲイブ: ウインストン・デューク
アデレードの夫。
不審者たちの異様さをなかなか理解しようとしない。

・ゾーラ: シャハディ・ライト・ジョセフ
アデレードの長女。
陸上が得意で足が速い。

・ジェイソン: エヴァン・アレックス
アデレードの長男。
いつも怪物のマスクを手放さずにいる。

「アス」のネタバレなし感想

「Us」は、確かに怖い映画です。

鏡や鳥の群れ、
リンゴ飴といった小道具をたくみに使って、
不穏な雰囲気をうま〜く作り上げていると感じました。

ところが怖さのレベルが絶妙にコントロールされており、
怖いんだけど、スクリーンから目をそらさずに観られる
ようにできていたんですよ。

最初の30分くらいは本気のホラー演出がなされてますが、
だんだんギャグっぽいシーンが増えて、
最後はM・ナイト・シャマラン的なサスペンス映画に変わっていきます。


ホラー映画は苦手って人も楽しめる映画なのだ


これはひとえに、
「Us」が硬派な社会的メッセージをもった映画だから
だと思うんですよね。

「ゲット・アウト」で"無自覚な人種差別"を描いたように、
ジョーダン・ピール監督は「アス」においても
我々が目を背けがちな社会問題を取り扱っている。

だからこそ
ちゃんと最後まで観ろよ
という意味をこめて、
あえてガチガチのホラーにはしなかったんだと思います。

さて「アス」が伝えたい社会派メッセージとは何か?ってわけですが
ここでネタバレしてもつまらないので、
いくつかヒントを出しておきますね。

  • 「アス(Us)」というタイトル
  • "彼ら"の服装
  • "彼ら"の身体的特徴

ぜひこれらに注目しながら映画を楽しんでみてください。
日本公開は2019年9月6日です!
eiga.com


もう観たよ!という人は、
後半のネタバレ解説をどうぞ〜。

以下、ネタバレあり

「アス」のネタバレあり考察

まずは、ざっくりとあらすじをおさらいしましょう!

"彼ら"の正体は、アメリカ政府の計画によって作られたクローン
計画は失敗し、クローンは地下施設に放棄された。


しかしレッド(アデレードのクローン)がリーダーとなり、
組織的な反乱を計画する。

クローンたちは地上にいる本体を殺害し、
自らが地上を支配しようとしたのだった。


アデレードは戦いの末にレッドを倒すが、
物語の最後、アデレードは真の記憶を取り戻す。


実はアデレードはミラーハウスでレッドと遭遇した後、
レッドに誘拐され、彼女と入れ替わってしまった。


アデレードは元々クローンで、レッドこそが本物のアデレードだったのだ……

いや〜 ぞっとするお話でした。
最後のどんでん返しもいい具合に後味を悪くしてくれてて好きです笑

しかし、「アス」の印象が
このどんでん返しだけになってしまってはもったいない。
もっと社会的なメッセージがこの映画にはあるんです。

ジョーダン・ピール監督が「アス」で描きたかったもの。
それはアメリカそのものでした。

そもそもタイトルの「Us(アス)」は
「U.S.(ユナイテッド・ステイツ)」と読めます。
またアデレードのクローン、レッドが
「我々はアメリカ人だ」
と話す場面もありました。

つまり、地下での貧しい暮らしを余儀なくされているクローンたちこそがアメリカ人である
ってことをジョーダン・ピールは言いたかったんですよ。

これだけだと「?」って感じですが、
もっと平たく言えば現代アメリカの格差社会
「アス」の重要なテーマとして取り上げられているのです。

同じ人間なのに、平等な生活を送ることができない現実

地上に暮らす人間たちと、地下に暮らすクローンたち。
彼らはまったく同じ人間です。
違いといえば、生まれた場所が違うだけ。

なのに、生まれた場所が違うというだけで、まったく不平等な人生を送ることになってしまうのです。

アメリカをはじめ、
いまの先進国が直面している格差問題そのものですね。

2018年現在、アメリカ国民の約25%が
年収10万ドル以上の高所得者です。
しかし、約22%は年収2万5000ドル以下の低所得となっています。*1

この現実を「アス」は痛烈に批判しているのです。

クローンはしゃべることができない

レッドをのぞいて、
クローン人間は言葉を話すことができません。

これはまず教育の不平等を表しているといえます。
地上に暮らすアデレードたちや、
友人のタイラー一家は比較的裕福な暮らしをしていますが、
それも高等教育をきちんと受けているからでしょう。

一方、クローンたちはまともな教育を受けられず、
話すことすらできないのです。
肉体はまったく同じなのに……。

もうひとつは政治における不平等です。
話すことができないとは、
国に自分たちの声が届かないということ。
教育、福祉、税制、あらゆる面で、
地下に住む人々の暮らしは後回しになってしまうんです。

金持ちはどんどん金持ちになり、
貧乏人はどんどん貧乏になっていく。

アメリカだけの問題じゃないよね、これ

クローンはまともな医療を受けられない

アメリカの医療費の高額さが
大きな問題になっていることはご存知の人も多いと思います。

日本と違って健康保険制度が整っていないので
高額な医療費を請求されて破産してしまったり、
治療を受けられずに死んでしまったりする人もいるそう。

「アス」でも、
息子のジェイソンのクローン"プルート"が顔にひどい火傷をおった姿で現れます。

ちゃんとした治療が受けられれば
ここまでひどい傷にはならずにすんだと思うんですよね。

また、夫ゲイブのクローンであるアブラハムも
医療の格差を象徴する存在です。

ゲイブはメガネをかけていますが、アブラハムはメガネをかけていません。

肉体は同じなので
ふたりとも視力は悪いはずなのですが、
アブラハムはメガネを買うこともできず、
不十分な視力の中での暮らしを強制されてしまっていたんですね。

格差社会の下にいる人々は犯罪者になりやすい

クローンたちは皆、
印象的なオレンジのジャンプスーツを着ています。
これは、アメリカの囚人服を連想させる服装です。

まともな教育を受けられず
低所得な仕事に就かざるをえない人たちは、
必然的に犯罪に手を染める確率が高くなります。

なにも彼らが悪人だから犯罪者になるわけではない。
犯罪でもしないと生きられないからそうなっちゃうのです。

まさに、人間らしい生活を手に入れるために地上の人間を抹殺しにきたクローンたちのように。

クローンたちはなぜハサミを凶器にして襲ってきたのか?

「Us」には"二重性"をもつモチーフがたくさん登場します。

少女時代のアデレードが迷いこむ鏡の部屋。
タイラー夫妻の双子の娘。
そしてもちろん、クローン人間。

ハサミが凶器に選ばれたのも2枚の刃をもっているからというのが大きな理由だと思います。

それともうひとつ、
僕はヒッチコックの名作「鳥」の影響を挙げておきたいです。

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「アス」には「鳥」を思わせるシーンがいくつかあるんですよ。

不穏な雰囲気を漂わせながら
ビーチに海鳥が群れてくる場面なんかまさにそうですし、
惨劇の起きた街を一家が車でゆっくりと走るシーンは、
「鳥」のラストシーンをほうふつとさせます。

ハサミはなんとなく鳥のクチバシに見えますよね。
「鳥」ではたくさんの人々がクチバシで突かれて殺されますが、
「アス」の犠牲者の姿はそれと非常によく似ています。

プルートが一家の車の下にガソリンを撒く罠をしかけてましたが、
「鳥」にもまったく同じトラップが登場しますし。

てなわけで、ハサミが凶器に選ばれたのは
ヒッチコックの「鳥」の影響説を僕は唱えておきます。


「鳥」もめっちゃ面白い映画だから観てね!

「エレミヤ書11章11節」とはどういう意味なのか?

「アス」の物語で
最初にクローンの犠牲者になったのは
「エレミヤ書11章11節」の看板を持っていた男でした。

「エレミヤ書11章11節」とは何なのでしょうか?
これは旧約聖書の一節で、こんなことが書かれています。

それゆえ主はこう言われる、見よ、わたしは災を彼らの上に下す。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない。*2

キリスト教の神を崇拝しなかったユダヤ人に対し、
神が天罰を与えようとしている場面です。

文字通り読めば、
「彼ら」=「地上に暮らす人」
「災」=「クローンの反逆」
と解釈できます。

しかしこの男がクローンに殺されたことを考えると、
逆の意味に取るのが正解かもしれません。

「彼ら」=「クローン」
「災」=「地上との格差」
と考えると
「彼らがわたしを読んでも、わたしは聞かない」
の部分もより意味が通ります。

クローンには声がありませんでしたからね。

エレミヤ書11章11節の破壊が、クローンの反乱の始まりとなったのです。

なぜ地下にはうさぎが飼われていたのか?

「アス」で印象的に登場するうさぎ

元々はクローンの実験に使われ、
はてはクローンたちの貴重な食料ともなっていたようですが、
どうしてうさぎなんでしょうか?
これも聖書をひもといてみると、答えらしきものがありました。

旧約聖書のレビ記第11章第6節にこう書かれています。

野うさぎ、これは、反芻するけれども、ひずめが分かれていないから、あなたがたには汚れたものである。*3

聖書によれば、うさぎは汚れた生き物だったんですね。
イースター(復活祭)では大事なモチーフになっているのでちょっと意外です。

つまりは、クローンたちの不遇な状況を強調するための装置
としてうさぎが選ばれたのだと思います。

なんせ、クローンたちは
うさぎを生で食ってたって言ってますからね……
汚れた生き物を火も通さず食らうなんて、
そりゃ辛すぎるよ。


プルートがやけどしてるってことは火は使えたんじゃ……そこはツッコんじゃダメか

まとめ 〜格差問題と、革命の恐怖〜

「アス」を観て素直に「怖えぇ〜!」と感じた人は、
この資本主義社会で豊かな暮らしを送れてる人かもしれません。

なぜなら、この映画で描かれてるのは社会の階層がひっくり返される恐怖ですからね。

つまりは革命への恐怖です。

アメリカ政府がクローンたちを見捨てずに
人間的な生活を保証していたら、
この惨劇は起こらなかったわけですよ。

日本も年々格差が大きくなってますし、
貧困層の数が確実に増えつつあります。

このまま格差が広がり続けると、「アス」の恐怖も現実のものになる……
かもしれないですぞ。


みんながもっと平等に豊かに暮らせる世の中が来るといいね

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