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【ネタバレ】「ジョーカー」あらすじ・感想・考察。強烈な悪意によって作られた、傑作ブラックジョーク!

「バットマン」シリーズに登場する
世紀の悪役をテーマにした話題作
「ジョーカー」を観ました!

傑作には間違いない、
しかし手放しに褒めるのはためらってしまう。
そんな、良心を試される映画です。

10点満点中9点

「ジョーカー」の予告編・あらすじ

コメディアン志望の男・アーサーは、
大道芸人として生計を立てながらも
いずれはスタンダップコメディの世界で
大成することを夢見ていた。

ある日アーサーは、
仕事上の不運なトラブルが続き
事務所を解雇されてしまう。

失意のまま地下鉄に乗って帰宅する途中、
3人の酔っ払った証券マンが
アーサーに因縁をつけてくる。

彼らから暴行を受けたアーサーは、
たまたま持っていた拳銃で
思わず反撃してしまい……

「ジョーカー」のキャスト

アーサー(ジョーカー): ホアキン・フェニックス
人を笑わせるのが好きな、心優しい男。
介護が必要な母親とふたり暮らし。
脳に障害があり、突然笑いだしてしまう疾患を抱えている。

マレー・フランクリン: ロバート・デ・ニーロ
アーサーが憧れる人気トーク番組の司会者。
偶然アーサーのビデオを手に入れ、
彼を番組のゲストに招く。

「ジョーカー」のネタバレあり感想・考察

いきなりですが、
Twitterで拡散されやすいツイートの特徴って
みなさんご存知ですか?

正解は
強者への怒り
を込めたツイートです。

国家、金持ち、マジョリティ。

そんな自分より立場が上の存在への
怒りや不満を容赦なくつっこむと、
あっという間に共感を呼んで
リツイートされまくるんです。

「ジョーカー」からはこれと似た意図を感じ取りました。

いまの社会に不満を抱えている人の
憎悪と暴力を巧みに刺激する映画

それが「ジョーカー」という作品なのです。

世の中に不満を抱えている人なんてたくさんいる。
だから共感を呼んで、劇場に足を運ぶ人が増える。

……それだけならいいんですが、
タチが悪いのはこの映画、
シナリオに強烈な悪意が込められている
んですよね。


とんでもなく悪趣味な映画だけど、好きになっちゃうようにできてるんだよ!

「ジョーカー」は「キモくて金のないおっさん」である

主人公であるアーサーは、実にまじめな男です。

障害を抱えながらも仕事をがんばってるし、
家に帰ればからだの不自由なお母さんに
ご飯を食べさせ、お風呂にもいれてあげる。

でも決して生活は豊かではありません。

不運な事故から仕事を失ってしまい、
市の財政見直しによって
カウンセリングも打ちきりになる。

明らかに弱者であるのに、
必要な支援を受けられなくなっていくんですね。

これ、まさに
「キモくて金のないおっさん」
そのものなんですよ。

「キモくて金のないおっさん」とは
まぁ読んで字のごとくなんですが、
40代以上で経済的に問題があり、
パートナーもいないような男性
と考えてください。

彼らは社会のピラミッドの中では"下の方"にいます。
お金がなく、恋人もいない。
社会的な承認も、精神的な充足も得られていない。

ところが
社会的支援を受けられるほど弱者ではない
んですね。

身体障害があるわけでもないので
公的な手当もなく「働け」と言われてしまう。

恋人に関しては完全に自己責任で片付けられる話です。

また男性は女性よりも社会的強者と見られ、
救済があとまわしになる傾向があります。


こうした、

自分では弱者だと思っているのに
社会的救済の対象にならない人々

の共感をたくみに刺激するように
できているのが「ジョーカー」という
映画なわけです。

「モダン・タイムス」が引用されている意味は?

劇中で印象的に引用しているのが
チャップリンの名作「モダン・タイムス」です。

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この映画が使われているのには
実に様々な意味が考えられます。

ひとつは
ジョーカーとチャップリンの対比

どちらも白塗りのコメディアン
という点では共通していますが、
一方は世界的映画人、
一方は恐怖の犯罪者です。

おなじようにコメディを志しながらも、
才能の有無やちょっとした不運によって
完全に立場が逆になってしまう恐ろしさが、
両者の対比によって浮き彫りになっています。

また
反資本家のメッセージ
にもなっていますね。

「モダン・タイムス」は、
資本主義の発達によって
庶民がまるで機械の部品のような
扱いを受けていた1930年代の思想を
痛烈に批判したコメディです。

要するに反資本主義の映画なんですよ。
チャップリンは一時期、共産主義者だとされて
ハリウッドを追放されてたくらいだし。

さらに、そんな映画を
ゴッサムシティの名士達が見てる場面は
労働者のデモが起きている最中に
反資本主義の映画を
資本家たちが楽しんでいる構図なわけで、

資本家と労働者の対立を必要以上にあおり
さらには資本家を徹底的にバカにする
意図もあるのではないかと読めてしまいますね……


へたすると現実世界で革命が起きるぞ

希望に裏切られ続けた結果、自ら希望を拒絶するラスト

大好きだったピエロの仕事を失い、
愛していた母親にも裏切られ、
コメディアンとして大成する夢をも
テレビの中で潰されたアーサー。

そして場面は
精神病棟にうつります。

カウンセリングを受けているアーサー。
カウンセラーは映画序盤に出てきた人と同じく
黒人の女性ですが、
こちらのほうが優しそうですね。

アーサー「ジョークを思いついた……」
カウンセラー「教えてくれる?」
アーサー「理解できないよ」

なぜアーサーは、
ジョークの内容を話さなかったんでしょう?

昔のカウンセラーには
「あなたは人の話を聞いてない」
と不満を漏らしていたアーサー。

新しいカウンセラーさんは
いかにもアーサーの話を
聞いてくれそうだったじゃないですか。

にもかかわらず、
「理解できないよ」と一蹴した挙げ句、
(おそらく)カウンセラーを殺害し、
アーサーは病棟から逃亡します。

アーサーは、
もう二度と希望に裏切られたく
なかったのではないでしょうか。

すべてはジョーカーの作り話!?

ううっ、かわいそうなアーサー……

とジョーカーに感情移入してしまったあなた。
残念でした。
この映画、すべてはジョーカーの作り話にすぎないのです。

言ってしまえば壮大な夢オチ!
あなたがアーサーの運命に胸を痛めた2時間、ぜーんぶウソ!
なんですね。

なぜそんなことがわかるのか?

そもそもバットマンシリーズに登場する
ジョーカーという悪役は、
根っからの嘘つきなんですよ。
本当のことなんて全然話さない。
その素性も、
次から次へと犯罪に手を染める動機も、
なーんにもわからない。

ジョーカーの名を世界中に知らしめた傑作「ダークナイト」でも、
彼は本当のことをちっとも話してくれません。

たとえば
「ジョーカーの口はなぜ裂けているのか?」
についても

「暴力的だったオヤジに切り裂かれた」
「妻を笑わせるために自分で切り裂いた」

とか、毎回言うことが二転三転しています。

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つまりね、
ジョーカーが語り手の時点で何も信用できない
ってわけですよ。


映画の最後、
アーサーはフランク・シナトラの
「That's life」という歌を口ずさみます。

www.youtube.com

これ、劇中に登場したテレビ番組
「マレー・フランクリン・ショー」の
エンディングテーマでもありました。

そう。

「ジョーカー」という映画は、
2時間のコメディ番組だったんですね。

光を浴びながら華麗にステップを踏み、
高笑いをあげながら、
ジョーカーは病院から脱走していく。

見事に番組を終わらせた彼の口からは、
こんなセリフが聞こえるような気がしました。

「おもしろかったでしょ〜? また来週も観てね〜〜〜!!!」

ああぁあああ! 悪趣味の極み!
でもそこがいいんだよ!!!

これぞ歴史に残る"悪い冗談"、
おそれいりました。

精神的に不安定なときには観ないほうがいいぞ

「ジョーカー」を10倍楽しく観るための関連作品!

「モダン・タイムス」

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やっぱり劇中で引用された
「モダン・タイムス」は観ておきたいですね!

工場で働きすぎたチャップリンが
精神に異常をきたして
病院送りになっちゃうとか、

道を歩いていたら
いつの間にか労働者デモの
首謀者と勘違いされちゃったりとか、

「ジョーカー」と似ている部分が
たくさん見つかります。

「ジョーカー」は
「モダン・タイムス」の
悪意に満ちたリメイク……
と言っても言い過ぎではないかも。

「キング・オブ・コメディ」

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コメディアン志望の若者が、
テレビに出たいがために
番組の司会者を誘拐するというお話。

筋書きだけ聞くとギャグ映画ですが、
実際は主人公のルパートが
勝手な思い込みで
司会者のストーカーと化していく、
背筋の凍るお話なのです。

「ジョーカー」のお話は
「キング・オブ・コメディ」に
かなり影響を受けているので、
比較してみると面白いですよ。

ちなみにこの映画で主演を務めるのは
ロバート・デ・ニーロ!

「キング・オブ・コメディ」で
コメディアン志望の青年を演じた俳優が
「ジョーカー」では
憧れられるコメディアンを演じる
という仕掛けになってるんですね。

凝りすぎ

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