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映画「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」の感想。2017年でベストのラブコメディだ!

映画「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」をニュージーランドで鑑賞してきました!

パキスタン出身のコメディアンと、白人女性との実話を元にした映画です。「ここ10年で一番のラブコメディの傑作」などと前評判が非常に高かったこの作品。実際に鑑賞したところ、その評判に違わず、思いっきり笑えて、最後は爽やかな感動に包まれる傑作でした!

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10点満点中10点

あらすじ

パキスタン出身の青年・クメイル(クメイル・ナンジアニ)は、シカゴで活動するスタンダップコメディアン。ある夜、クメイルは自身のショーに客として来ていたエミリー(ゾーイ・カザン)と意気投合し、ふたりは恋人となる。


だが、クメイルは同時に、パキスタンの慣習として両親からしきりにお見合いを勧められていた。エミリーという恋人がいながら、両親に逆らうことができず、お見合い相手の写真を部屋に溜め込んでいくクメイル。そしてある日、エミリーがそれらの写真を見つけてしまう。「あなたはずっと嘘をついていたのね!」と激怒して部屋を出て行くエミリー。クメイルは何も言うことができなかった。


数日後、クメイルの元にエミリーの友人から電話が入る。エミリーが倒れて入院してしまい付き添いがほしいとのことだった。クメイルが見舞ったときには重症には見えなかったエミリーだが、容態が急変する。


原因不明の肺の感染症のため、薬を投与してエミリーを昏睡状態にする必要があると医者から説明を受けるクメイル。家族の同意が今すぐ必要だ、さもないと命に関わると医者に詰め寄られ、クメイルは彼女の夫というていで同意書にサインをするしかなく……。

悲しみや怒りも笑いに乗せて表現してくる技術が見事!

「The Big Sick」がコメディ映画としてすげぇなと思うのは、悲しみや怒りが爆発する場面ですら、笑いに包んで表現してくるところですよ。笑いに変換して、ではない。きっちり笑えるのに、その奥にちゃーんと登場人物の悲しみや怒りが見えるんです。

それが一番よく出てるのが、予告編にもチラッと映っている、クメイルがドライブスルーでゴミ箱をなぎ倒すシーン。ここの前後は作品中でも最も笑える場面なんですが、同時に、クメイルのやるせなさがどばどばと溢れ出ている場面でもあるんです。泣きながら笑える。笑えているのに寂しい。映画でこんな複雑な感情を想起させることができるのか……と感心してしまいました。

あらすじでもわかるとおり、この映画は「難病モノ」なんですけど、それでも必要以上に重くなりすぎていないのは、主演・脚本を務めるクメイルのコメディアンとしての矜持なのだと思います。劇中でも「いつも側にコメディを(Always with comedy)」なんてフレーズが出てきますしね。しかし決して軽薄にもなりすぎてない。非常によいバランスになってると思います。

「アメリカに住むムスリム2世」という立場の不安定さ

この作品のキモとなっているのが、主人公であるクメイルの非常に不安定な立場です。

まず、クメイルはパキスタン出身でありながら、若いときに両親とアメリカに渡ってきたこともあり非常にアメリカ的な生活を営んでいます。お見合い結婚には興味がなく、自由恋愛を楽しんでいる。イスラム教徒ですが、まともにお祈りもしてないし、ヒゲは「チクチクしてかゆい」という理由できれいに剃ってしまってる。

「せっかくアメリカに来たのに、パキスタンにいるかのような暮らしを続けるなんて理解しがたい」というのがクメイルの主張です。しかし同時に家族のことは大切に感じており、お見合いの日にはちゃんと家に帰って両親や兄夫婦と食事をとっているし、もらったお見合い写真も捨ててないわけです。

ところが、アメリカ社会にすっかり溶け込んでいるかというとそうではない。皆さんご存じのように、2001年のアメリカ同時多発テロ、また昨今のISISによるテロなどによって、アメリカ人の中には西アジアや中東系の人々に冷たい目を向ける人も少なくありません。劇中にも、クメイルが観客から「ISISに帰れ!」と野次られる場面が出てきます。

そんな非常に不安定なアメリカとのつながりを強くしてくれたのが、エミリーという女性の存在だったわけです。にも関わらず、家族を大事にしたいという思いから捨てられずにいたお見合い写真が、彼女との関係を壊してしまう。エミリーの母親には明らかに「娘を傷つけたイスラム教徒」という目で見られており話もまともにできません。おまけに、エミリーの存在が自身の両親との関係性にまでヒビをいれてしまいます。

クメイルがどこに自分の居場所を求めようとしているのか? クメイルとエミリー、それぞれの両親は彼をどう理解しようとしているのか? といった部分に注目してみると、ただ笑って楽しむ以外の見方ができますよ!

最高のラストシーン、そしてエンドロール

「The Big Sick」のラストシーンは、今年観た映画の中ではトップクラスでした! めちゃめちゃ凝った何かがあるというわけではなく、ある意味ベタな展開ではありますけど、僕はこのベタさが最高だよなって思いました。クメイルが何かに気づいて「あっ」と感じる一瞬、その瞬間を観客と共有する、そして物語が収束に向かっていく、この流れは完璧ではないでしょうか。

そしてそして、この映画のクライマックスはエンドロールかもしれませんね。クメイルとエミリーの実話を元にした映画ってことで……おっとこの辺にしておきましょう!

ほんとにオススメのこの映画、残念ながら今のところ日本での公開予定は発表されてませんが、ぜひぜひ日本の皆さんにも観てもらいたい作品です! 公開されるといいなぁ……。海外在住で観れるよという人は是非劇場へ。後悔はさせませんよー!

【追記】
日本での公開が決定しました。封切りは2018年2月23日(金)です!!

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