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映画「軍艦島」のネタバレあり感想。舞台が軍艦島でさえなければ普通に楽しめる映画だったのでは!?

韓国でこの夏公開され大ヒットを記録した映画「軍艦島」(英題「The Battleship Island」)。ニュージーランドで先日封切りになったので、映画館で鑑賞してきました。ネタバレありで感想書きます。長いです。

10点満点中1点

あらすじ

日本統治下の朝鮮・京城(ソウル)。クラリネット奏者で自身の楽団を率いるカンオク(ファン・ジョンミン)は、娘で専属歌手のソヒ(キム・スアン)とバンドメンバーたちとともに、下関にやってくる。かねてより日本での活動を望んでいた彼は、警察関係者にワイロを贈り、やっとの思いで営業許可を取りつけたのだった。


しかし下関港についた途端、カンオクたちは日本の兵隊によって移送列車に詰め込まれ、そのまま船に乗せられてしまう。船の着いた先は、長崎県沖にある端島、通称「軍艦島」。ここは400人もの朝鮮人が強制労働に従事させられている、まさにこの世の地獄だった……。

話の筋自体はそんなに悪くない、むしろ面白かった

映画そのものの感想を簡潔にまとめると「大脱走モノとしては普通に面白かった。しかし軍艦島を舞台にしたことで台無し」って感じです。

わけもわからず異常な世界に連れてこられてしまった男とその娘。圧倒的な腕力でリーダーの地位を奪い取るヤクザ。密命を帯びて軍艦島に潜入してきた諜報部員。などなど、登場人物はそれぞれとても個性的で、感情移入する対象としてはじゅうぶんです。彼らが一致団結し、最初の脱出計画を実行する場面は非常にスリリング。小道具がひとつひとつ揃っていく過程を気持ちよく楽しめます。

最後は、軍艦島から全員脱出を試みる朝鮮人と、それを阻止しようとする日本軍の全面戦争が勃発するのですが、これがまた爆発の量も銃弾の数もすごくてですね、また建物もがっしゃんがっしゃん崩落するわで、非常に見応えがありました。

ということで、ストーリー自体は実は面白いんです。もしも戦う相手が日本軍ではなく、架空の悪の帝国だったとしたら、これはエンタメ映画としてちゃんと楽しめる内容になってたと思います。これは別に自分が日本人だからってわけじゃなくて、ちゃんと理由があります。それは後ほど詳しく書きます。

なまじ実際の歴史を題材にして、余計なメッセージ性を入れたがために、映画として破綻しちゃってるんですよね。

軍艦島はアウシュビッツなのか? 事実誤認を誘うのはやめてほしい

まず、あちらこちらから批判が上がっている、史実とだいぶ異なる軍艦島の描写。僕自身は、歴史映画に考証は必要ではあるものの、完全に史実通りに作んなきゃいけないとは思ってません。多少の創作が入るのも結構でしょう。

しかし、軍艦島がまるで朝鮮人の強制収容所のような描き方をしてるところはさすがにヒドイ。

カンオクたちが軍艦島に到着するやいなや、彼らの衣服や貴重品は、憲兵隊によってすべて没収されてしまいます。さらに、男性は素っ裸にされて屋外で全身消毒、そのまま風呂に入れられて揃いの作業着に着替えさせられ、水を吸ってぐじゅぐじゅになった畳の敷かれたタコ部屋に放り込まれます。一方、女性たちもこれまた素っ裸にされて産婦人科で性病検査。それ全裸にする必要あるのか? そして慰安婦として遊郭に送られる始末です。

兵士に銃を突きつけられ、身ぐるみ剥がされなすがままにされ、劣悪な住環境を余儀なくされる。否が応でも、ナチスのアウシュビッツ強制収容所を思い起こさせます。端島の炭鉱の所長も、胸にドイツの鉄十字みたいなバッジつけてるし。

いやいや、強制労働の事実はあったとはいえ、日本が朝鮮人のジェノサイドをくわだてたなんてことはないのになぁ……。

と、思ってたらですよ。

なんと映画の後半では、本気で日本人が朝鮮人の大量虐殺を計画してくるんです。

その理屈がまたひどくて、
「広島に原子爆弾が投下され、日本の敗戦は時間の問題である」
「そうなったら軍艦島での強制労働の事実が明るみになり、関係者は戦争犯罪に問われる」
「ならば、証言者となってしまう朝鮮人は全員殺さなければならない」

っていうとんでもない理由なんです。いやそれもっとひどい戦争犯罪だからな! さすがにこれには開いた口がふさがりませんでしたよ……。

この大虐殺の計画が漏れたことで、朝鮮人全員での大脱出につながるってわけ。

韓国視点の戦争映画ですから、日本軍や炭鉱の関係者を悪として描くのも理解できます。しかし、物語の一番重要な部分に、炭鉱で働く朝鮮人の大量虐殺なんていう、あまりに非人道的で荒唐無稽な"創作"を持ち込むのはいかがなものでしょうかね!? 

しかも、映画の冒頭に「これは史実にインスパイアされた物語である」との一文が表示されたり、エンドロールが始まる前に、軍艦島が世界文化遺産登録されたことに対する抗議文が映し出されるというのは、映画の大部分が史実であるかのように誤認させる、悪質な演出と言わざるをえません。

ほかにも明らかに史実と異なる点としては、朝鮮人に日本語のわかる人が少なすぎる*1、軍艦島にB29の大規模爆撃が起こる*2、など様々あって、どこのパラレルワールドだよって感じなのですが、とりあえずこれくらいで止めときます。

軍艦島を舞台にしたせいで、最後の全面戦争が台無し!

冒頭では、最後の全面戦争に対してビジュアルを褒めましたけども、中身をのぞくとこれがまぁツッコミどころだらけなんです。

そもそもなんですけど、この軍艦島の日本軍の指揮官は誰なんでしょうかね? リーダーらしい人は炭鉱の所長くらいで、日本軍の将校は全然出てきません。もしかして炭鉱の会社が日本軍を私費で雇ってるんでしょうか。誰の命令でこの兵隊たちは動いてるんだ。

で、最後は炭鉱の一番えらい人が首を取られて戦闘終了、勝利宣言ですよ。いやそんなわけある? 戦国時代じゃないんだから、大将の首が取られたってすぐに誰かが指揮権引き継いで戦闘続行では? まだかなりの数の兵隊が残ってるんだし。

さらに個人的には、まだ子供であるソヒちゃんをこの殺害に加担させる筋書きにも首をひねらざるを得ませんでした。しかもねぇ、これがけっこう残酷な殺し方なんですよ。いくら戦争とはいえ子供に人を殺めさせるのはどうなの……。

……とはいえですね、このストーリーも、日本軍と戦ってるから支離滅裂になっちゃってるだけで、敵がどこか架空の悪の組織なら全然アリだと思うんです。

たとえば、勇者一行が魔王の軍団に立ち向かう、みたいな話なら、手下のモンスターがどれだけ残っていようが、魔王を倒したら終わりじゃないですか。それならお話として成立しますよね。また、魔王のような人外相手だったら子供がいくら手を出しても倫理的に問題ないでしょう。先ほど批判した朝鮮人虐殺の件にしたって、日本軍じゃなくて魔物とかエイリアンとかだったら、こちらを皆殺しにする理由がいくらでも見つかります。

お話としては面白いのに、軍艦島が舞台というだけで台無しになってしまったってのはそういうことです。

敵が人外じゃないと成立しない話を、人間相手にしちゃってるから破綻してるんですよ。

これが、今作「軍艦島」の最大の失敗だと言い切ってよいでしょう。

(もしこの映画が「日本人は人ではない」という思想で作られたとしたらそれは悲しすぎる)

朝鮮人vs日本人という単純な対立ではないが、バランスの取り方は中途半端

この映画が「善良な朝鮮人」と「邪悪な日本人」という単純な対立構造でないことは強調しておく必要があるでしょう。最初に倒すべき悪として描かれるのは日本人ではなく、日本人に取り入って同胞を搾取する、親日派の朝鮮人・ユンです。余談ですが、ユンは日本人からは「イトウ」という日本名で呼ばれており、日韓併合を主導した伊藤博文を連想させる名前になってます。

リュ・スンワン監督は、「軍艦島に関する資料を見ると、すべての日本人が悪かったわけではなく、善い朝鮮人だけがいたわけでもない。関連証言資料が多く存在する」「あまりにも簡単に二分したアプローチで観客を刺激する方式は歪曲しやすい構図だと考えた」と述べています。*3

ですが客観的に見てみると、そこまで善悪の描き方のバランスが取れているかは大変に疑問です。

まず、先ほどのリュ監督の言葉に関して。確かに悪い朝鮮人は出てきますが、良い日本人は出てきません。映画における日本人は、軍人だけでなく一般の市民でさえも、道行く朝鮮人に物を投げつけたり暴言を吐いたりとひどい扱いです。朝鮮人に同情する日本人はひとりもいないんです。

さらに映画の終盤では、軍艦島からの脱出に反対し、日本人と話し合いをしようと考える朝鮮人たちを「そんなことされて計画が漏れたらおしまいだ」と柱に縛りつけてしまうシーンがあります。そして彼らは、偶然にではありますが、日本人による放火に巻き込まれて死んでしまうんです……。私欲のために日本人と癒着した者も、平和的な解決策を求めたものも、親日派の朝鮮人はみな悲惨な最期を遂げるのがこの映画です。

要するに、日本人と友好的に接したら死ぬぞってことですよ。さすがにこの展開には頭を抱えてしまいました。

これでは、「朝鮮人 vs 日本人」という単純な対立が、「朝鮮人 vs 日本人+親日派」という別の対立になっただけではないでしょうか? バランスの取り方が実に中途半端で、これならむしろ、敵を日本人だけに絞ったほうがエンタメとしてわかりやすい分よかったんじゃないの?

原爆のシーンはどういう意味なのか?

最後にひとつ解説しておかなきゃいけない部分があります。この映画で一番の謎であろうラストシーンです。はるか彼方に長崎に投下された原子爆弾のキノコ雲がたちのぼるのを、脱出した朝鮮の人々が眺める場面で、「軍艦島」は幕を下ろすのです。

僕はてっきり、「あぁ、これが韓国から日本への勝利宣言として使われてしまってるのか。韓国の映画館ではここでみんなガッツポーズなんだろうな」と思いましたが、どうもそうではない。朝鮮人はみな呆然とした表情ですし、そのうちのひとりは「なんてことだ……あそこにも朝鮮人がたくさんいるのに」とつぶやくんですよ。

これはいったいどういう意味なのか? 観客を気持ちよく映画館から返したいのなら、ここは朝鮮人みんなで快哉を叫ぶシーンじゃないのかなと思うんですけど、全然そんな終わり方じゃないんですよね。

どうやら、韓国・聖公会大学校の教授で歴史学者、ハン・ホング氏へのインタビューにその答えがありそうです。ハン氏は「軍艦島」にシナリオ監修という形で関わっています。この中に以下のような言及がありました。

「長崎にたくさんの朝鮮人がいる」というセリフは、リュ監督が僕に会ってから追加したんだよ(笑)。(中略)原爆をきちんと扱った映画はまだない。原爆問題について大っぴらに語るのは簡単ではない。ときおり、原爆は「日本にくだった天罰」と表現されることがあるけれども、ならば、その犠牲になった韓国人はどうなるというのだ?*4

なるほど……つまり「韓国人がいまだ直面できていない歴史上の悲劇はたくさんある」って意味だったんですね。軍艦島の悲劇は、映画の中で一応の救済を見たかもしれない。でも、韓国人の被爆者はまだ救済されてないぞ、ほかにもまだまだあるぞ……と。

言いたいことはわかりますが、この一言が加わったせいで、観客はいったいどんな気分でこれから劇場を出ればいいのか、わからなくなってしまったんじゃないでしょうか? 日本軍をボコボコにして、最後に原爆まで落ちて、よっしゃーって思った韓国人のお客さん、いっぱいいたと思うんですが。韓国での客入りが今ひとつだった大きな理由のひとつは、このラストではないでしょうか。もちろんリュ監督は、わかりやすいエンディングにはしたくないと思って狙ってやってるはずですけどね。

しかしこれは近々、韓国発の原爆映画が発表されるでしょう。いったいどんな切り口で出してくるのか興味深く待ちたいと思います。

まとめ

ひとりの日本人としては、「軍艦島」を鑑賞するのは非常に疲れました。旧日本軍や当時の日本人を悪く描くのはいっこうに構いません。しかし、やってもいない重大戦争犯罪をホントにやったかのように描かれるのは、やはりしんどいです。

日本での公開はいまのところ未定ですけど、公開されたとしても観に行くのはオススメしません。歴史映画としてはもちろん、エンタメとしても破綻しています。日本の過去と向き合うならば、嘘だらけの映画をみるより博物館に行ったほうがはるかに有益でしょう。

以上です。

*1:韓国併合以後、日本統治下の朝鮮では日本語で教育が行われていた

*2:軍艦島が爆撃を受けた事実はない

*3:映画『軍艦島』リュ・スンワン監督、「軍艦島のユネスコ登録、韓国外交部にも責任ある」 | Joongang Ilbo | 中央日報

*4:Google 翻訳の結果を元に、筆者により一部修正

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