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【後半ネタバレ】映画「犬ヶ島」のあらすじ・感想・考察。なぜ日本が舞台なのかを徹底解説!

「グランド・ブタペスト・ホテル」「ダージリン急行」などの作品で知られるウェス・アンダーソン監督が、日本を舞台にして制作したアニメーション映画「犬ヶ島」を観ました!

10点満点中10点

「犬ヶ島」のあらすじ・キャスト・基本情報

今から20年後、近未来の日本。
とある大都市・メガ崎市では「ドッグ病」と呼ばれる伝染病が蔓延し問題となっていた。
メガ崎市の小林市長は、その対策のためすべての犬をゴミの埋立地である「犬ヶ島」に隔離してしまう。


それから数ヶ月後、その島にひとりの少年が降り立つ。
彼の名前は小林アタリ。
小林市長の養子である彼は、この島に送られてしまった飼い犬・スポッツを探しにやってきたのだった。
アタリは島の犬たちと合流し、スポッツを探す冒険の旅に出る。
一方、メガ崎高校の新聞部は、市長選挙を目前にして生まれた不可解な犬隔離法案に不信を抱き独自に調査を始めていた……

【基本情報】
監督・脚本: ウェス・アンダーソン
出演: コーユー・ランキン、リーブ・シュレイバー、ブライアン・クランストン、エドワード・ノートン、ボブ・バラバン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、スカーレット・ヨハンソン、フランシス・マクドーマンド、野村訓市、高山明、伊藤晃、夏木マリ、村上虹郎、渡辺謙、オノ・ヨーコ
上映時間: 101分


ネタバレなし感想。ストップモーションアニメのクオリティが半端ない!

1097体もの人形を使って作られた、もんのすごく細かいアニメーションのクオリティには大注目!
メインキャラクターである犬たちの動きは本物と見まごうほどで、人形であることを忘れてしまうほど。

それ以外にも和太鼓演奏に相撲、歌舞伎といった日本文化の表現もめちゃめちゃリアルなんです。
しかし現実の日本じゃなくて、アンダーソン監督の頭のなかで再構築された想像上の日本が舞台になっているから、奇妙な世界に迷いこんでしまった独特のトリップ感を味わうことができます。
特に職人が寿司を作るシーンは、異様な気味悪さなのに何度も観たくなる不思議な魅力にあふれていました。

黒澤明映画へのオマージュの塊!

日本版予告編では「ウェス・アンダーソンが日本への愛をこめて描く……」というナレーションが入っていましたが、こりゃどっちかというと「黒澤明への愛を込めて」のほうが正しいです笑
それくらい「犬ヶ島」には黒澤映画へのオマージュがこれでもかと詰めこまれていました。
一番わかりやすいのは舞台設定ですね。
今作ではゴミの埋立地で暮らす犬たちがメインキャラクターとなっていますが、黒澤監督もゴミの中で暮らす人たちをテーマにした映画を撮ってましたね →Amazonで観る
ほかにも数えきれないほどの隠しネタがあるので、黒澤映画ファンの人は探してみてください!
僕が見つけた黒澤オマージュは以下の記事にまとめてありますよ。

ペットを題材に心の交流を描いた傑作!

「犬ヶ島」の大きなテーマは心の交流です。
そのテーマを描くのに、日本語がものすごく効果的な役割を果たしています。

より具体的には、観客を犬たちに感情移入させるためのしかけが「日本語」なんですね〜。
実は予告編でもそのしかけがチラッと描かれているんですが、日本人には逆にわかりにくいかもしれません。
ですので、「犬ヶ島」は視点を変えて2回見ることをオススメします。

なぜ日本語が重要なのか?
そもそもなぜ日本が舞台なのか?
については、この下のネタバレ考察編で詳しく書いているのでそちらもご覧くださいませー!

以下、ネタバレあり

なぜ日本が舞台になっているのか。その必然性とは?

「犬ヶ島」最大のポイントは、なぜこの映画は日本が舞台になっているのかってことです。
単純に人間と犬との関係を描きたいだけであれば、別に日本を取り上げる必要はないし、日本人の役者を使う必要だってないわけですから。

「犬ヶ島」における人間と犬とのコミュニケーション問題を考えるとその答えが見えてきます。
すなわち、人間と犬とは基本的に言語による意思疎通ができないというのがこの映画を貫いている姿勢だからなのです。

アタリ少年と犬たちが最初に出会うシーンを思い出してみればわかりますが、犬たちはアタリ少年の言葉を理解できていません。
身振りやスポッツの写真を見ながら、彼は犬を探しにここまで来たんだなと推測しているだけです。
犬と人間には別々の言葉をしゃべらせる必要があった。
だからこそ、「犬ヶ島」の舞台は英語圏でない外国でなければなかったわけです。

そしてなぜ外国の中でも日本が選ばれたのかというと、 犬 = 主人に仕えるイメージを侍と重ねているからでしょう。
劇中で頻繁に「七人の侍」のメインテーマがかかることからも明らかだと思います。

言葉がわからなくても、心は通じる

劇中、日本語のセリフは一部では翻訳されたり字幕がついたりしていたものの、そうでないシーンも多くありました。
そこには明確なルールがあったのに気づいたでしょうか?
日本語セリフは、登場人物が公式に声明を発表する場合にのみ翻訳されていたんです。
たとえば、議会での演説やテレビのニュースがこれにあたります。

人間同士の会話であっても、非公式な場面では翻訳されていません。 *1
小林市長と渡辺博士が風呂場で会談していたシーンや、メガ崎高校の新聞部でのシーンには字幕がついていませんでしたね。

そしてもうひとつ重要なルールがありました。
人間と犬との会話の場面には字幕がつかないというルールです。
すなわち、日本語のわからない観客は犬の視点で映画を観ることになるわけですよ。

観客はアタリ少年が犬に何を話しているのか推測しかできませんが、彼の喜怒哀楽は読み取れるし、犬に対して愛情をもっていることもわかる。
普段、犬たちが見ている世界を疑似体験させてくれるこの仕掛け、非常にうまいな〜と思いました!
(ただ一般の観客たちには不親切と思われてしまったのか、劇場の客入りはイマイチでしたが……)


それがもっともよく表現されていたのが、チーフがアタリ少年の投げた棒を取ってくるシーンです。
チーフは絶対に人間の命令は聞かないというモットーをもっていました。
最初は命令を拒みますが、最終的にはおれて棒を拾ってきます。
しかしそれは、アタリ少年の命令を聞いたからではなく「お前が気の毒だからだ」とチーフ自身がしゃべっていましたね。
当然アタリくんにはそれがわかってないわけですが、「Good boy」とチーフを抱きしめます。
このときのチーフは、戸惑いながらもうれしそうな目をしていました。

言葉による理解はできなくとも、心を通わせることはできる。
そんな普遍的なメッセージをこの映画からは感じ取りました。

実は「犬ヶ島」の上映前に、人間と犬が人語で会話するって設定の映画の予告編が流れてたんですが、犬が人間と同じ価値観をもってて同じ言葉をしゃべるなんて、あまりに傲慢な設定ですよね〜。
対して「犬ヶ島」は、人間と犬は異なる価値観と言葉をもっているという極めて誠実な視点で作られた映画であり、とても好感がもてる作品でした!
アンダーソン監督、何度でも観たくなる素晴らしい作品をありがとう〜!!

「犬ヶ島」を無料で観る方法!

「犬ヶ島」は、動画サイトのU-NEXTにて配信されています。*2
無料体験でもらえる600ポイントを使えば、実質0円で視聴することが可能です。*3
80000本もの動画が観放題になる上、お試し期間は31日間もあるのでお気軽にどうぞ!

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「犬ヶ島」をより楽しむための関連作品

ゴミの中で暮らす人たちを明るく描く!

「犬ヶ島」の舞台設定の元ネタになったのが、黒澤明監督の映画「どですかでん」です!
ゴミの埋立地に粗末な小屋を立てて暮らす貧しい人たちの日常を、極めて明るい語り口と色調で描いた、黒澤映画の隠れた名作。
残念ながら興行的にはまったくの失敗に終わりましたが、もともと画家志望であった黒澤監督が初めて手がけたカラー作品だけあって、その色彩感覚には驚かされます!

政治汚職を取りあつかった社会派エンターテイメント!

アンダーソン監督が「犬ヶ島」を作るにあたって大きな影響を受けたと語っている映画が悪い奴ほどよく眠るです。
こちらも黒澤明監督の映画で、「犬ヶ島」と同じように汚職事件がテーマになっています。
社会の悪を暴くために奮闘するヒーローを、三船敏郎がスーツ姿で熱演!

*1:映画終盤でアタリ少年が腎臓移植を受けるシーンのみ例外。

*2:2018年10月現在。最新の配信状況はU-NEXT公式サイトでお確かめください。

*3:31日間のお試し期間中に解約した場合。

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